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最終更新日
2021/12/3 (金) 16:14

2018.11.30

シリーズ・さまざまな研究所を巡る(第1回)〜JAXAの宇宙太陽光発電〜

執筆者:厚木エレクトロニクス 加藤 俊夫

シリーズ・さまざまな研究所を巡る(第1回)〜JAXAの宇宙太陽光発電〜

 これまで、半導体技術の解説、優良企業の紹介など、約5年間にわたって紙面を汚してきたが、今度は研究所巡りを企画した。日本には多くの研究所があり、それぞれ注目すべき将来性のある研究を行っておられるので、その一端を紹介することは読者の皆さんにも興味をもって読んでいただけると思う。

 まず第1回は、宇宙科学研究所(JAXA)を訪問し、宇宙太陽光発電システム(Space Solar Power System=SSPS)について、この分野の第1人者である田中孝治氏に説明していただいた。

1. 宇宙太陽光発電とは何か

 SSPSは、赤道上空3万6千kmの静止軌道に大面積の太陽電池を設置し、発電した電力をマイクロ波またはレーザにより地上に送電するものである。

 1968年にこの壮大な概念を提唱したのは米国のピーター・グレーザで、たとえば静止軌道上に2km平方の太陽電池板を設置し、発電と同時にその裏面で5.8GHzのマイクロ波に変換して地上へ送る。地上では直径4kmのレクテナ(Rectenna:Rectifier Antenna=マイクロ波を直流に変換するためのアンテナと整流器を一体としたもの)を設置し、現在の原子力発電所1基とほぼ同じ1GWの電力を受電できるようにする。

 3万6千km上空の静止軌道というのは、地球の半径の6倍ほどの高度となり、太陽に対して23°傾いて回っているので、図1のように地球の陰に入ることがほとんどない(春分と秋分に7日間、陰になる)。

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 したがってほとんど年中昼も夜もなく、24時間休みなく発電が可能で、地上の太陽光発電のような気候や時間による発電量の不安定さがない。かつ太陽光の空気による減衰は非常に少ないので、地上に設置された太陽光発電より10倍近くの太陽光を利用できる。宇宙で発電し、地上で実用になるまでのロスは、50%程度と見積もられている。

 この壮大な計画は、アメリカのNASAをはじめ世界中で研究されたが、あまりにも検討事項が多くて、だれも成功していない。日本では旧宇宙開発事業団(現在のJAXA)が1990年代から研究をはじめ、現在の技術レベルは世界のトップといわれている。

2. 発電素子

 地上で一般に設置されている太陽光発電素子は、そのまま宇宙でも使用可能であるが、ロケットで宇宙まで運搬することを考えると、重量が軽いことが条件となる。素子自身が軽いことと、変換効率が高いことが重要である。

 現在の地上での発電の主流素子であるシリコン系の場合は、やや重いことと変換効率が20%程度なので物足りない。化合物系の素子では、変換効率40%ぐらいが可能であるが、大面積を作成するのは少々無理と思われる。最近話題になっているペロブスカイト系なら、膜厚が薄膜構造で変換効率も30%が期待されるので有望かもしれない。

 この程度の変換効率なら、送電ロスなども含めて面積当たりの発電量は概略200W/m2となり、1GWの発電を得るには、2.5km平方程度の大面積の素子が必要になる。

 非常に大きい面積を宇宙で広げることが必要なので、折り畳んで運び、宇宙で広げる技術が必要である。そのために、畳んでおいて開く日本古来のミウラ折といわれる技術があるらしく、そんな方法も検討されている。大型の反射板を使って集光すると、発電素子への太陽光の光量を1000倍ぐらいに高められるので、変換効率が50%を超えることも可能かもしれない。

 図2は、反射板を用いた例である。いずれにせよ、発電素子は宇宙用と限らず、地上でも効率向上に対する研究開発が加速されているので、これからの技術革新が期待される。

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3. 地上への送電方法

 現在検討されているSSPSでは、地上へ電力を送る方法として、5.8GHzのマイクロ波とレーザの2種類が検討されている。マイクロ波とは、波長10cm〜0.1mm、周波数でいえば0.1〜100GHz程度の電波である。

 よく話題にされる冗談であるが、鳥がマイクロ波中に侵入すると焼き鳥になる。なぜならマイクロ波は電子レンジに使われている電波であり、以前、アメリカで濡れた飼い猫を乾かすため、猫を電子レンジに入れたところ死んでしまったという話があった。しかし心配無用。電波の強度は、ビームの中心部分でも約100mW/cm2とされている。この値は地上へ降り注ぐ太陽光のエネルギー密度とほぼ同じであり、生態系への影響は少ない。それでも、ビーム内へは立入禁止区域を設定することになるだろう。

 現在、地上での送電実験が行われて、貴重なデータが得られている。次は、宇宙でも実証実験が必要で、その後実用化計画を決めることになろう。

1. マイクロ波による送電実験

 JAXAとJspacesystemsのグループでは、5.8GHzマイクロ波の地上実験で1.8kWの電力を55m離れた受電装置に無線送電する実験に成功している(図3)。

 宇宙から地上へ大電力を送る場合は、kmサイズの巨大なアンテナが必要になり、角度の調整など機械的な動きを制御するのは困難なので、数多くの小さなアンテナから構成されているフェーズドアレイアンテナを開発している。受信する地上のアンテナはいくら大きくても数km程度なので3万6千km上空から正確に送電するのは非常に難しい技術といえる。当然、地上での受信状態を同図のようにパイロット信号を宇宙へ送って、ずれが生じている場合は正しく制御する。また、アンテナは数十億個のアンテナ素子の集合で、完全な平面上に並べるのは至難の業であり、重量を軽くするため極力薄くするので変形しやすく、基準からのずれを電子的に補正する必要がある。カーボンナノチューブは、軽くて丈夫でアクチュエータとしても働くので補正に使える。

 図4は、開発者の田中孝治氏が開発中のアンテナである。

2. レーザによる送電

 JAXAはレーザによる送電に関しても、地上実験に成功している。図5のように200mの高さのビルから350Wの電力伝送に成功している。

3. 発電素子とアンテナの関係

 1GWもの大電力の扱い方は重大な問題である。数億個の太陽光発電素子と同じ程度の数の送信用アンテナを背中合わせに貼り付ければ、それぞれ個別に扱う電力は極めて少なくなってまったく問題ない。ところが、図6-1のように、発電素子の表面が太陽を向かなくなってしまうと発生する電力が落ちてしまう。

 この対策には2つの方法が考えられる。一つは、図2で示したように反射鏡を用いて常に太陽光がフルに発電素子に照射する方法である。この方法は、巨大な反射鏡を設置しなければならないと言う問題がある。

 もう一つの方法は、図6-2のように発電素子と送電用アンテナを張り合わせず、その間の電力のやり取りは連結ワイヤで行う。

 ただし、発電素子は毎日地球を1周するので、単なるワイヤではぐるぐる巻くことになってしまう。そこで、同図の右のようにスリップリングの使用が考えられる。巨大な電力を扱う長寿命のスリップリングの開発は課題である。

4. 資材の輸送方法

 「試算ではSSPSの部品を打ち上げるロケットの回数として500回は必要とされ、現在の技術だと輸送費だけで5兆円かかる計算」と言われ、これでは商業ベースに載らない。

 そこで筆者が勝手に計算すると、太陽光発電素子とアンテナを合計して重量が100g/m2にすることができれば、2.5×2.5km2で625トンとなり、1回で20トン運べる大型ロケットがあれば30回の打ち上げで済む。これなら商業ベースに乗る。

 JAXAや民間企業は運搬コスト削減のため、SSPSシステム自体の軽量化に努力しておられるが、ロケットの方も民間企業の動きが活発で、火星に人を送る計画もあって、今後の進歩が期待される。

 また、現在の計画では、宇宙でのシステムの組立をロボットで行うことが検討されている。

 たしかに3万6千kmという高度は、国際宇宙ステーションの100倍の高度であり、月までの距離の約1/10である。したがって、組み立て作業者を送るのも、月へ人を送る程度の配慮が必要であり簡単ではない。この点も重要な課題と思われる。

5. デブリ対策

 宇宙には、これまでに打ち上げたロケットや人工衛星の破片などが高速(銃弾より高速)で地球を回っている。これをスペースデブリと呼んでおり、SSPSに衝突すると大変である。一部の発電素子やアンテナにデブリが衝突した場合は、後に取り換えられるような設計にしておき、重要な心臓部のみ完全なデブリ対策を行うため、軽くて強固な炭素繊維などが検討されている。

6. 波及効果

 マイクロ波の電力伝送技術は、いろいろなところに応用されそうである。たとえば、海上の風力発電などで陸へ電力を送る場合には、海底ケーブルが不要となる。離島や山頂に電力を送ることもできる。またドローンや飛行機のように飛んでいるものに電力を送ることもできる。最近は電気飛行機などが話題になっているが、重い電池を積まなくても地上から電力が送れれば好都合である。

7. 期待される成果

 福島原子力発電所の事故以来、将来のエネルギー供給に対する関心が深まり、温暖化対策の炭酸ガス排出規制もあって化石燃料への依存ができなくなるので、総合的に有効なエネルギー対策が重要となっている。政府の発表しているエネルギー施策も、自然エネルギーを利用といいながら、実際は化石燃料に頼っている。そこで「SSPSの登場」といいたいが、まだ検討事項があまりにも多くて、エネルギー問題解決の俎上に載っていない。そのため、予算的にもあまり力が入っているとはいいがたい。そこで、筆者は無責任なロードマップを考えてみた(図7)。

 まず、政府や世間一般の人に関心をもってもらうために、1MW程度の実験機を10年以内に静止軌道へ打ち上げることを提案したい。これが成功すれば、世間一般の強力なサポートが得られることになる。

 核融合発電は数十年検討してもまだ見通しが立たないと言う大失敗であるが、これを教訓として、SSPSもしっかりしたロードマップに則って遂行することが重要で、技術だけでなくマネジメントが問われていると感じる。 せっかく日本が世界をリードしている技術なので、なんとか成功していただきたいと切に思う。関係者のご努力に期待する。

執筆者

厚木エレクトロニクス 加藤 俊夫

厚木エレクトロニクス 加藤 俊夫

国内唯一の実装技術専門誌!『エレクトロニクス 実装技術』から転載。
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