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その他 2021.05.14

デジタル式音響コム型アコースティック・エミッション(AE)センサの開発とそのインフラへの適用について 〜第2回 AEおよび音とはなにか、AE計測の概要について〜

(株)武藤技術研究所/武藤 一夫

デジタル式音響コム型アコースティック・エミッション(AE)センサの開発とそのインフラへの適用について
〜第2回 AEおよび音とはなにか、AE計測の概要について〜

 

1. はじめに

 

 現在のデジタル化は、情報技術(IT; Information technology)から情報コミュニケーション技術(ICT ; Information Communication Technology)に移行し、デジタル・トランスフォーメーション(DX)に進化してきている中、我々の暮らしを、より安心・安全なものにするために、といった構造物(建物、ビル、橋、道路)から自動車、鉄道、船舶、飛行といった人工物(Artifact)の健全性や防災というキーワードが重視されている。

 こうした状況の中で、本連載「デジタル式音響コム型アコースティック・エミッション(Acoustic Emission、以下AEと略す)センサの開発とそのインフラへの適用について」の第1回ではAEの人工物・インフラへの適用と非破壊検査についてについて述べた。

 また、AEについて触れる前に、その全体像を見てくため、非破壊試験の概略を見た。

 つまり、AEは非破壊試験法の一つの方法であり、非破壊検査におけるAE の位置付けとその意義が理解されたかと思う。

 そこで、本稿では、AEについての基礎を理解していただくために、 AEおよび音とはなにか、 また、AE、音に関連する単位、そしてAE計測の概要について紹介する。

 

 

2.  AEおよび音とはなにか?

 

1.AEとは

 

 AEとは、Acoustic Emission(アコースティック・エミッション)の略で、直訳すると、音響放射のこと、すなわち、外力によって固体の物体が変形あるいは破壊に至る際に発生する音(弾性波)の放出、放射のことである。

 身近なAE現象のいくつかを例に上げて見よう。

 例えば、図1に示すように、そば屋やラーメン屋などで「割箸」を割るときに生じるバリッという音、「たくわん」を食べるときのポリ!ポリ!という音、「お茶碗」を落としたときのパリンという音。

 また、「地震」が来て柱がミシミシいう音、はたまたその地震そのものもスケールの大きいAE現象ともいえる。

 つまり、このような割箸、茶碗、たくわん、柱、地面といった物体がある外力などによって変形あるいは破壊に至るときに発生する音(音波)をアコースティック・エミッション(以下AEと略す)という。

 このような音を弾性波(※1)といったり、圧力波といったりする。

 このような音を弾性波(elastic wave)、あるいは圧力波(pressure wave)という。

 ところで、弾性波とは、弾性体(物体に力を加えると変形をおこし、その力を取り除くと元の形に戻り変形が残らない物質)内を伝わる波である。

 弾性波には図2に示すように縦波(longitudinal wave)と横波(transverse wave)とがある。

 前者は粒子の振動(弾性媒質の変位方向)が波の進行方向に平行で、体積の疎密変化に伴う体積弾性によって生ずる疎密波で、地震などではP波という。

 後者は粒子の振動が波の進行方向に直角で、等体積のままの形状変化に伴う形状弾性によって生ずる波で、S波という。

 縦波よりも伝達が遅く、約半分の伝達速度となり、固体の中だけに伝搬し、液体や気体の中は伝わらない。

 これまでのAE技術において検出できる波は30[kHz]~10[MHz]付近の横波や縦波が主体である。

 AEは音の一種であることが分かったので、音についてみてみる。

 

(※1) 弾性波(elastic wave)は、弾性体中を伝わる変形波で、弾性応力波、弾性ひずみ波とも呼ばれる。体積変化を伴う「体積波」と、形状変化は生じるが体積変化を伴わない「等体積波」とに大別される。一次元物体中の圧縮波、引張り波は前者に対応し、剪断波、あるいはねじり波は後者に対応する。弾性波の伝わる速度は弾性係数、ポアソン比と密度に依存する。

 

図1 アコースティック・エミッション(AE)現象の身近な代表的な事例 1)

 

図2 弾性波の縦波と横波 1)

 


2.音とは

 

 音(sound)とは、一般に物体(媒質)中を縦波(疎密波;longitudinal wave)として伝わる力学的エネルギーの変動(波動;wave motion)であり、波動としては周波数・波長・周期・振幅・速度などの特徴を持つ音波(sound wave)である。

 音波を伝える速さ、音速(sound velocity)は媒質によって異なる。

 空気中では15[℃]で約340[m/s]、海水中では約1500[m/s]、地面中ではP波で5000~7000[m/s]である。

 図1における音の媒体は割箸、茶碗、たくわんの場合は空気で、地震は地面となる。

 また、図2に示したように音には粗密の音圧の要素と波動としての振動の要素の二面性がある。

 つまり、音を計測するということは、一筋縄ではゆかない厄介なものとご理解いただきたい。

 さて図3に示すようにヒトの耳で聴ける音の範囲、つまり可聴周波数帯域(audio frequency band)(※2)はほぼ20[Hz]~20[kHz]であり、ヒトの耳で聞こえない20[Hz]以下の低い周波数帯域の音波を低周波(low frequency)(※3)という。

 逆に、20[kHz]以上の高い周波数帯域の音波を超音波(ultrasound、ultrasonic)という(※4)。

 AEは、一般に人間の耳で聴ける可聴周波数帯域と聴けない20[kHz]以上の超音波の音をさす。

 

(※2)可聴周波数帯域とは、聴覚で音として感知することができる周波数帯域。人間、犬、コウモリなど、動物の種類によって可聴域は大幅に異なる。これを可聴範囲(audible range)ともいう。

(※3)低周波とは、波動や振動の周波数(振動数)が低い(小さい)こと。厳密には、音での低周波の定義では、100 [Hz]以下は低周波音と呼ばれ、20[Hz]以下は超低周波音と呼ばれる。後者は工場や高速道路橋の周辺でよく発生し、人体の健康に悪影響を与えるという報告があり、代表的な例として船酔いがある。

(※4)超音波とは、人間の耳には聞こえない高い振動数をもつ弾性振動波(音波)。

 

図3 種々の周波数可聴範囲 1)

 


3.AE(音)に関連する単位としての音圧とは

 

 ここでは、AE(音)に関連する単位としての音圧についてみてみる。

 一般に、音は大気圧の微小な圧力変化であるところから物理量を音圧(sound pressure)といい、単位はパスカル[Pa]である。

 音の強さは、次式(1)に示すように音圧レベル(SPL:sound pressure level)で表される。

SP==20log10(P/P0) [dB]  ・・・(1)
 
 これは基準音圧値P0に対するデシベル値[dB]で、図4に示すように l[kHz]での最小可聴音圧(ヒトが聞きうる最小の音圧)20 [µPa]が用いられる。

 つまり、最小可聴値を基準値として音の大きさをデシベル値[dB]で表すと0~140 [dB]で扱うことができる。

 人間の聞くことのできる音圧は20 [µPa(10-6Pa)]から200 [Pa]と1000万倍にもなる。

 また、人間が感じる音の大きさは音圧の対数に比例するという法則がある。

 一方、人間の耳の感度は周波数によって異なり、同じ音圧の音でも周波数が異なると大きさが違って感じられる。

 ある音が1 [kHz]の音圧レベルP[dB]の音と同じ大きさに感じると、その音は音の大きさ のレベルP phon であるという。

 この「音の大きさ」は、「音の高さ」と「音色(timbre)」とともに後述の「音の三要素」の一つである。

 図5は純音の音の大きさのレベルと周波数の関係を示しており、この曲線を等感曲線(isosensitive curve)という。

 図5から音の物理量と感覚量とは一致せず、複雑な関係をもっていることがわかる。

 

図4 音圧のいろいろ(リオン(株)提供)

 

図5 音圧レベルと周波数(リオン(株)提供)

 


4.音の三要素

 

 音には、①音の大きさ、②音の高さ、そして③音色という「音の三要素」がある。①については、図6に示すように音を振動の面で見た場合、同一の周期の条件下で、音の大きさが大きいのは振幅が大きく、逆に小さいのは振幅が小さい。

 上述したように単位は[dB]で表す。 

 ②の音の高さとは、●図7に示すように同一の振幅の条件下で、1秒あたりのくり返し回数を示す周波数(振動数)で表され、高い音は周波数が高く(振動数が多い) 低い音は周波数が低く(振動数が少ない)なる。

 周波数をあらわす単位はヘルツ[Hz]という単位が用いられる。

 音の大きさや高さが同じであっても、例えば、ピアノとギターでは音色が違う。

 これは、ピアノとギターでは音の波の形が違うからである。

 このように、③の音色は音の質を表現するために用いられる用語で、音波の波形に関係するもので、音の大きさや高さに比べて複雑な属性で、定常的で周期性のある音の場合には、音色は主としてその音を構成する各部分音の周波数と音圧とによって規定される。

 最後に、音は、たとえ1つの音であっても色々な周波数の音を含んでいて、それらが合成された複雑な振動となっている。

 詳細は後述するが、センサで得られたAE信号も音であり、複雑な合成音になっている。

 このような音の波形を分解、解析(フーリエ変換(※8))すると、音を構成している周波数成分に分けることができる。

 このようにして分解したものを、音のスペクトル(※9)という。

 各周波数成分のうち、最も周波数の低いものを基音、それ以外を上音という。

 このうち、通常は基音の周波数がその音の「高さ」として聞こえ(例外については後述)、上音にどのような周波数の音がどのくらいの強さで含まれているか、が音色の違いとして聞こえる。

 

(※8)フーリエ変換は、19世紀仏国の数学者・物理学者ジョゼフ・フーリエが次元解析として創始した実変数の複素または実数値関数を別の同種の関数に写す変換で、英語でFourier transformと表記され、 FTと略される。フーリエ変換により,得られた信号の重要な特性としてその信号の周波数成分(スペクトル)を明らかにすることが可能となる。つまり、フーリエ変換でスペクトルを分析でき、AEの信号源を同定したり,その特徴的なパラメータを抽出してパターン認識が行える。

(※9)スペクトル(spectrum)とは、複雑な波形や信号をその成分に分解し,各周波数の成分ごとの大小に従って配列したもので、2次元や3次元的に図示され、その図自体のことをスペクトルともよぶ。

 

図6  音の大きさの説明図

 

 

図7  音の高さの説明図

 


3. AE計測の概要

 

 AE計測の概要を知る上で、図8に示すように、物体内部の超音波計測と対比するとわかりやすいので、以下について見てみる。

 

1.物体内部の超音波計測

 

 超音波計測は図8の左図に示すように、一般に送信部と受信部を持つ超音波探傷センサ(トランスジューサ(※10)、プローブ、探触子)で材料中にある静的状態のクラック(キズ、巣、空洞)などに対して超音波を送信させ、そのクラックなどに反射あるいは通過した超音波(エコー)を受信する能動的(active)計測方式である。

 送信波はパルス発生器からRFなるパルス波が送信され、図8に示したように材料中のキズ、および底部からのエコーが受信派としてモニタ(表示器)に表示される。

 材料中の欠陥(キズ、クラック)検出することを超音波探傷試験といい、日本工業規格JIS3060などで規定されている。

 超音波探傷試験UTは第1回の図2で見たように欠陥の検出における発生後の試験方法である。

 その試験の種類には、(1)パルス反射法、(2)透過法、(3)共振法があり、(1)のパルス反射法には波の種類により、①垂直探傷法(図8の左図、●図9)、②斜角探傷法、③表面波探傷法、④板波探傷法の4つの反射法ある。

 さて、図9に示すようにその送信と受信の時間からキズ(クラック)の位置を、得られたエコー高さをモニタに表示し、モニタ上の波形からキズの大きさや位置を推定する。

 超音波探傷センサの送受信周波数は測定しようとするキズの大きさで異なり、小さいキズになればなるほど周波数は高くなるが、一般的には20[kHz]~数十[MHz]付近であることが多い。

 0.1[mm]位のキズの探傷測定が限界である。

 超音波探傷の身近なところでは妊産婦の胎児の状態や胆嚢・腎臓・尿道などの結石をチェックするエコー検査はその代表例である。

 その他、自動車等の塗装の膜厚などの測定にも使われる。


(※10)トランスジューサ(transducer)は、測定量に対して処理しやすい出力信号を与える変換器と定義される。一方、センサ(sensor)とは本来、物理量(あるいは化学量)を検出するもので、JIS Z8103では対象の状態に関する測定量を信号に変換する系の最初の要素とされている。しかし、現在ではトランスジューサもセンサとして取り扱われており、センサの解釈が広くなっている。

(※11) RFとは、(radio frequency)の略で、ラジオ波のことで、高周波ともいう。周波数30~300MHz(波長100km~1m)の電磁波である高周波のことである。

 

図8 物体内部の超音波探傷試験と音響試験 1)

 

図9 超音波探傷計測の概要 1)

 


2.物体内部のAE計測

 

 これに対し、AE計測は、物体の内部(材料中)に外力が負荷されている動的状態で、材料中のクラックが塑性変形あるいは破壊するときに発生する超音波(これをAE源という)が固体中を伝播する弾性波、即ちAE信号をAEセンサで受信する受動的(passive)計測方式である。

 AE計測の試験は第1回の図2に示したように欠陥の検出における発生中の音響試験AETである。

 この規格に関しては、日本工業規格JIS Z2342があり、ここでは2003圧力容器の耐圧試験などにおけるAE試験方法及び試験結果の等級分類方法が規定されている。

 AE計測は図10に示すようにクラックの進展をリアルタイム(実時間)で計測できるオンライン・モニタリングが可能でてる点が特徴である。

 そのため、あらゆる分野の構造物などのトライボロジー現象を連続的に監視でき、地震、軸受などで異常が発生するようなヘルス・モニタリング計測が可能で、人間の暮らしの安全、安心、そして事故の未然防止に役立てられる。

 しかしながら、AE計測は測定対象の材料や構造物に外力が負荷される動的状態で行われるため、計測中に外乱やノイズ(雑音)が多いため、計測上これらの問題をしっかりと対策する必要がある。

 つまり、超音波探傷と異なり、材料や構造物中に発生したAE波は比較的長い距離を伝播するため減衰し、微弱になる。

 このようにノイズの多い環境の中から微弱なAE信号を計測するために、SN比が小さくなるので、図10に示すようにAE計測では信号をアンプ(増幅器)によって増幅し、さらに不要なノイズや雑音を除去するために種々のフィルタ、それらの信号処理装置が必要となる。

 超音波領域では微小な割れ(クラック)等に伴うAEを検出することが可能であるため、破壊に至る前の予知が可能となるわけである。

 

図10 AE計測の概要 1)

 

<引用文献>

1)武藤一夫、「図解わかる機械計測」、共立出版、2016

2)武藤一夫、「高度モニタリングへのAE技術の進化~その基礎からデジタルセンサ開発まで(上)- AE 技術の基礎からセンサ/素子の動向と課題-」(有)工業技術社、計装、 Vol.59 No.7、pp.53-58(2016)

3)武藤一夫、「高度モニタリングへのAE技術の進化~その基礎からデジタルセンサ開発まで(下)- LN を用いた音響コム型デジタル式AE センサの開発-」(有)工業技術社、計装、 Vol.59 No.9、pp.57-61(2016)
 

 

(株)武藤技術研究所/武藤 一夫

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