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- そろそろ本当の公差設計の話をしよう! ~車載電装品から学ぶ、“ゼロ・ディフェクト”実現のための公差解析~(後編)
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- 2021/1/12 (火) 11:43
2020.12.11 その他
そろそろ本当の公差設計の話をしよう! ~車載電装品から学ぶ、“ゼロ・ディフェクト”実現のための公差解析~(後編)
Nakadeメソッド研究所/中出 義幸
1. はじめに
本稿は、公差設計をする前にものづくりを考慮した、設計者のスキルアップに直結する構造設計について、
① 公差設計をどのようにしたらよいのか
② 設計基準、金型構造、樹脂成型、材料特性を考慮した設計の大切さ
を、筆者の実体験から設計の勘所としてお伝えするものである。
前回(本誌2020年11月号)は「前編」として、「現状の課題」「公差設計と公差解析」「公差値を決める設計プロセス」「金型構造と射出成型機」について論じた。 今回はその続きである。
2. 樹脂成形での配慮すべき設計公差ポイント
1.成形不具合とその対策形状
(1)厚肉による樹脂の縮み:ヒケ、ソリ(図1)
図1 ヒケ、ソリ
ヒケ、ソリ対策は、均肉設計と肉盗み形状の最適化である。
均肉にすることで、成形サイクルも短くなり、公差の精度が上がる(図2)。
図2 肉盗み
(2)テーパ形状
肉厚の変化に対してテーパを設けることで段差部に発生する成形歪み、ヒケが緩和できる(図3)。
図3 テーパ
(3)リブ追加によるソリ防止
リブを追加することによって、ソリを防止することができる(図4)。
図4 リブ
(4)R付け:応力緩和
シャープな角は、①強度低下になる、②応力集中、③成形時の樹脂の流れが悪い、などの問題がある。
その対策として、Rをつけることで、流動性の良化の他、手にやさしいという効果もある(図5)。
図5 R付け
(5)リブ厚みの最適化
ヒケを防ぐためには、リブの厚みは板厚の半分以下にするのが理想である(図6)。
図6 リブ板厚
公差を考慮した樹脂別推奨肉厚を、表1に示す。
表1 公差を考慮した樹脂別推奨肉厚
数値は一般的な指針であり、部品形状や成形方法によって異なる。
(6)抜き勾配
抜き勾配を設けることで、金型からの離型がスムーズになり、離型時の傷や、成形品のキャビ取られもなくなる。
より良い成形品を入手するためには必要である(図7)。
図7 抜き勾配(出典:プロトラブズ(同)https://www.protolabs.co.jp/)
2.公差上配慮すべき金型設計内容
(1)コア・キャビティ設計
金型は成形品を囲んで凸部と凹部に分割される。分割面がパーティングラインになる。
・凸部はコア(雄型)
・凹部はキャビティ(雌型)
キャビティは、一般的に成形品の外観を表す形状となり、内側の見えない部分がコアになる。
キャビティは、金型から成形品が取り出しやすいように傾斜(抜き勾配)をつける。
金型が開いた瞬間に、成形品はコア側に取られ、キャビティから離れることになる。
したがって、射出成形機へ金型を取り付ける際は必ずキャビティが固定側となり、コアが可動側となる(図8)。
図8 コア・キャビティの構造
(2)深い切削への対処
抜き勾配を付けることで、深さのある部品がスムーズに離形できる。
目安はパーティングライン(コア・キャビティの合せ面)から深さ30mmごとに1°の抜き勾配を設けるようにすることである。
(3)シボ加工表面仕上げ
抜き勾配は、標準で3°以上、中程度は5°以上とる。
(4)スライド構造金型
スライド構造は、金型部品をスライドさせることでアンダーカット(※1)形状を製作できる(図9)。
図9 金型スライド
(※1)アンダーカット…成形品を金型から取出すとき、そのままの状態では離型できない凸形状や凹形状。
(5)2方向抜き構造の金型
(4)に示したスライド構造を使用しないで、すり合わせ形状で低コスト化する構造である。
すり合わせ面の角度は、3°以上を推奨する(図10)。
図10 上下抜き金型付き当て
(6)バンプオフ方式離型(無理抜き)
バンプオフとは、小さなアンダーカットのことで、スライドを使用せずに2方向抜き金型からスムーズに離型ができる(図11)。
図11 バンプオフ
軽微なアンダーカットであれば、バンプオフで対応可能になる。
(7)ゲートの位置
ゲートの肉厚が薄いと、樹脂の充填が悪くなり、ゲートカットの際には成形品が破損する可能性がある。
⇒ゲート位置には十分な肉厚が必要である(図12)。
図12 ゲートカット(出典:プロトラブズ(同)https://www.protolabs.co.jp/)
(8)金型寸法を決める際の注意点
実際の成形では、部品形状によって予想以上に収縮したり、逆に収縮しなかったりする。
成形条件である程度公差をコントロールできるが限界があり、場合によっては、金型を修正しなければならないことが生じる。
金型は削るのは簡単だが、肉を盛るのは困難である。
⇒金型を作り替えなければならない。
従って、削り方向で金型寸法を調整できるように、
・キャビティ(凹)の場合は、小さな値の収縮率にする。
・コア(凸)の場合は大きい値の収縮率を設定する
必要がある(図13)。
図13 コア、キャビティ
狙った寸法が得られなかった場合は、金型を少しずつ削って調整することを行う。
寸法精度を要求する部分についても同様に金型を削って調整する。
なお、収縮率は同じ材質であっても、肉厚、壁厚、部位によって縮み⽅が異なるので注意が必要である(出典:MONOWEB https://d-engineer.com/mold/seikeisyuusyuku.html)
3.設計者が一番知りたいこと⇒公差値設定のポイント!
①.一般的な最小公差(精度)は、± 0.05
②.寸法が大きくなるにしたがって、公差も大きくなる!
例えばABSやPC(ポリカーボネート)などの比較的収縮率が小さい樹脂では、10mmあたり0.02mmで、POM(ポリアセタール)やPPなどの収縮率が大きい樹脂では、10mmあたり、0.04mmが、最小公差±0.05に追加されると考えるとよい(出典:プロトラブズ(同) 図解樹脂部品設計 https://www.protolabs.co.jp)
3. 公差設計の勘所~設計者として押さえておきたいノウハウ
①公差設計は、積上げ公差で行え!
②K・S・D=(経験とセンスと度胸)が大事!
私の経験では、一般的にいわれている設計成立のために公差を厳しくすることはしない! 設計者はものづくりを最大限に考慮した、安定したものづくりができる形状と、金型調整可能な構造と個所を図面で現場に示すことである! さらに、設計者は現地に行って金型を見て、成形品を確認してものづくり側と話し合って、設計仕様に反映させることが大切である。
安定したものづくり形状とは、
①均肉設計
②上下、左右対称形状
③コーナーR付け
④適度な抜き勾配形状
である。
以下に、ノウハウ事例としてスイッチ(図14)を例にとって解説する。
ここで必要となる設計は、「プッシュボタン構造設計」「プリント基板の位置決め設計」「樹脂への板金圧入設計」「プッシュ操作スイッチ構造設計」である。
図14 スイッチ外観
1.プッシュボタン構造設計……凹と凸形状嵌合(図15)
図15 スイッチ分解図
機能:スムーズにボタンが上下に動くこと。
手段:ボタンの凸と本体の凹部の勘合で構成、凹凸のスキ間は最悪でも、0.02確保する
・ボタン凸寸法:1.50 0/-0.04
・本体の凹部寸法:1.52 +0.04/0
⇒ 金型加工を考えて片側公差を両側公差表示に変換。
・ボタン凸寸法:1.48±0.02(1.46~1.50)
・本体の凹寸法:1.54±0.02(1.52~1.56)
なお、図面には設計者の意図を片側公差で補助で記入する。
⇒( )寸法で片側公差を記載するとよい。
場合によっては、金型の抜きテーパも必要。
さらに、凸、凹のセンターずれも考慮が必要だが(図16)、ここでは割愛する。
図16 センターのずれ
(1)凹凸の隙間公差計算
①積上げ法
凹凸隙間=(1.54-1.48)±0.02±0.02=0.06±0.040(0.02~0.10)
②確率法(2乗和平方根)
凹凸隙間=(1.54-1.48)±√0.022+0.022=0.06±0.0282(0.032~0.088)
積上げ公差と確率公差の差=0.040-0.0282=0.0118
結果…確率法は積上げ法に対して、0.0118隙間を詰めることができる。
ただし、正規分布していることと、0.3%の干渉品が出る。
さらに、公差計算の因子が2つしかないので確率法での信ぴょう性に欠ける。
(2)設計ポイント:凹と凸形状の嵌合
実際には、ボタン凸部の寸法を固定して、本体側の凹部形状を作る金型の幅を最初は大きくしておいて、金型を微調整で削って、本体成型品の凹幅を狭くすることで、ボタン凸とのがたつきを抑え、ボタンをスムーズに上下させることができる(図17)。
図17 修正前後勘合図
2.プリント基板の位置決め設計
筐体の2本の突起に、穴2ケを設けたプリント基板を嵌合させる(図18)。
図18 事例の基板図
下記の寸法公差が指定された場合、突起寸法に対して基板の穴径は、最低どれだけ大きくしなければならないか。
積上げ法と確率法で求めてみる。
公差値
穴間距離…A:±0.1
穴径…ΦB:±0.05
突起間距離…C:±0.1
突起径…ΦD:±0.05
①積上げ法=0.1±0.05±0.1±0.05=0.3
②確率法=√0.1²±0.05²±0.1²±0.05²=√0.025=0.158
積上げ法だと、突起径に対して0.3以上、確率法だと、0.158以上穴を大きくしなければならない。
積上げ法だと穴と突起の差が、0.3もあり位置決めできない。
また、確率法でも0.158のガタが発生してしまうことになる。
■対処事例(図19)
図19 基板勘合
突起D=Φ3 0/-0.05、B穴の公差は、+0.05/0とする。
突起Dの片側公差を両側公差に変換すると、D=Φ3. 0/-0.05 ⇒ Φ2.975±0.025
次に穴Bの寸法を、突起との最小ガタを0.03とすると、Φ3に0.03を加算して、さらに片側公差0.05を加味すると、
穴B=Φ3.03 +0.05/0 となる。
両側公差に変換して、穴B=Φ3.055±0.025,他方の穴は公差に余裕を持たせた長穴設計とする。
具体的には、F寸法は、穴Bと同様に3.03+0.05/0とし、長穴のE寸法は、最悪でも突起が穴に入るように、Φ3に寸法Aと寸法C、穴と突起の公差を加算して、
E寸法=3+(0.1+0.1+0.025+0.025)=3.25以上とする。
E寸法は穴に突起が入ればいいので、最小値を3.3として、片側公差+0.3と設定してもよいことになる。
結果:筐体の2本の突起に、穴2ケを設けた基板をガタなく勘合させるための最適な設計値は、
穴間距離公差A=±0.1と突起間距離公差C=±0.1、突起ΦD=Φ3 0/-0.05、穴B=Φ3.03 +0.05/0、穴幅F=Φ3.03 +0.05/0、長穴幅E=3.3 +0.3/0、となる。
設計ポイントは、1つの突起Dと穴Bで位置決めをしてx方向のガタを抑制し、y方向はF寸法で規制して、E穴は最悪公差の長穴幅を設計すれば、ガタを最小に抑えられる。
さらに、ガタを「ゼロ」にしたい場合は、突起ΦDに小さな△リブをつけて、基板挿入時にリブを潰して圧入勘合させることや、突起にテーパを付けて、根元でガタを抑える設計手法を使うこともある。
3.樹脂への板金圧入設計:樹脂筐体にブラケット固定の設計(図20)
図20 ブラケット
金属製ブラケットを樹脂製筐体に挿入勘合させる構造設計をする場合、ブラケットの位置決め用の突起凸を下面に2個所基準面として設けて、上面にはブラケットを圧入固定するための△のつぶしリブを設置することで、ブラケットを筐体に挿入した際に、筐体に設けた△リブが圧入寸法分、つぶれてブラケットが固定でき公差計算なしで品質保証ができることになる。
ただし、勘合する筐体の根元にはコーナRを設けること。
4.プッシュ操作スイッチ構造設計
プッシュスイッチの要件としてプッシュボタンのガタをなくすために、プリロードX寸法を、0~-0.3に設定する構造設計において(図21)、X寸法公差を積上げ法と確率法で求めてみる。
図21 プッシュボタン構造
図中①~④の、おのおのの寸法値
①10±0.1(設計基準面から筐体爪までの高さ)
②5±0.05(筐体爪からボタン先端までの長さ)
③0.05 0/-0.05(スイッチのはんだ実装浮き)
④5+0.2/-0.1(スイッチ高さ)
A=①-②
B=③+④
プリロード寸法X=A-B
③と④の片側公差を両側公差に変換する。
③0.05 0/-0.05 ⇒ 0.025±0.025
④5 +0.2/-0.1 ⇒ 5.05±0.15
■積上げ法
A=10-5±(0.1+0.05)=5±0.15
B=0.025+5.05±(0.025+0.15)=5.075±0.175(4.9~5.25)
X(積上げ)=A-B=5-5.075±(0.15+0.175)=-0.075±0.325
X寸法は、-0.4~+0.25になり、プリロードが0.4から隙間が0.25の範囲で空くことになる。
■確率法:
X(確率)=A-B=5-5.075±√0.12+0.052+0.0252+0.152=-0.075±0.189
X寸法は、-0.264~+0.114で、プリロードが0.264から隙間が0.114空くことになる。
積上げ法も確率法も、設計要件Xのプリロードの、0~0.3を満足しないことになる。
対応策として、スイッチへのプリロードが、隙間が空かないように現状部品の実力値調査と、X寸法のずれを修正する金型調整個所を示すことが必要になる(図22)。
図22 プッシュボタン計算グラフ図
■現状部品の実力値
スイッチはんだ実装浮き:③=0.01±0.01
スイッチ高さ:④=5.05±0.075
よって、Bの実力値は、B=③+④=0.01+5.05±(0.01+0.075)=5.06±0.085(4.975~5.145)
したがって、Aのねらい目寸法は、4.975以下になり
設計要件Xのプリロードが0~0.3より、Xの公差範囲は、±0.15となる。
Bの実力公差が、±0.085なので、現実的にAに許容される公差は、残りの0.15-0.085=0.065となる。
結論は、④はスイッチ高さの実力値と、③の実装はんだ浮きの実力値と、①の設計基準面から筐体爪部までの寸法を固定して、最終的には、スイッチを押すボタンの寸法②を金型改造可能なように金型を浅く作っておいて、最悪プリロードが印加されるように、現物に合わせて金型を削って設計を成立させることが最適な手法になる。
これは①③④寸法が、設計ねらい値からずれた場合に、ずれを補正することに有効に働く効果がある。
最終判断としては、ボタン寸法②の金型寸法を最初は調整可能に浅くしておいて、金型削り方向で、その他①、③、④を加味して、ボタンにプリロードが印加されるように現物調整を行う(図23)。
図23 金型調整個所
4. 公差設計実践! 2stepのすすめ
上記事例のように、0.3%の不良を容認する確率法でも設計が成立しない場合が多いことから考えて、ものづくりから考えた公差設計を、設計構想時と製品量産後の2stepで実践することをおすすめしたい。
①step1(設計時)…積上げ法で公差計算し、ものづくりで調整可能な設計成立の考案
②step2(量産後)…工程管理のための確率法の適用
その他、考慮すべき内容として、
・金型の耐久摩耗による寸法変化!⇒プレス品は、最初は寸法が小さい。
・材料削減のマイナス公差品⇒コイルばね、板材
・定尺品⇒プリント基板
がある。
5. 最後に
ほとんどの設計者は中身を十分理解しないまま確率法で公差計算を行うが、確率法は正規分布が前提で、必ずしも公差値が3σに入る保証はない。
また、0.3%の不良も許容しなければならない課題があると共に、実際には狙い寸法に対するズレも生じる。
ものづくりのばらつきが実際の製品性能そのものになり、材料、形状、金型構造を考慮した、「積上げ公差で設計」をした後は、「確率法で工程管理をする」ことが現実的である。
すなわち、成形部品のヒケ、倒れ、抜きテーパ、突き出しピン、パーティングライン、ゲートを考慮して設計の基準面と公差を決め、さらに金型調整可能な構造を考案することが、設計の手戻りがなく最もものづくり側が喜ぶことである。
利点として、製造現場から意欲的に協力してもらえ、工程品質も抜群に安定する方策になる。
確率法の計算に工数をかけるよりも、加工技術や樹脂成形シミュレーションに注力した方が、設計完成度が格段にあがり、技術者の育成にもつながる。
私の経験では実際の開発現場は、設計が成立しないからと言って決して数値だけで公差を厳しくすることはしない!なぜならば設計が決めた構造、形状、設計仕様で、もののばらつきは決まってしまうからであり、設計を改善しないことには公差は縮まらないのである。
ばらつきを小さくすることは容易ではないが、今回執筆したように、金型修正可能な構造にしておけば、狙い値に対するズレを修正することで設計を成立させることが可能になる。
現在、世の中で教えられている公差設計は、筆者からいわせれば数字のマジックであって、本来は現場のものづくりを理解して初めて可能になる。
そのためには樹脂成型技術、金型加工技術を習得する必要がある。
これらは公差設計と切っても切れない関係があるが、公差設計という切り口で総合的に教える教育現場がないことが残念である。
それは各企業の個々人のノウハウであり開示できないことと、総合的に教えることの難しさがあるのではないかと感じている。
昨今、IOTやAIが進歩しているが、結局は先人のこれまでの経験をデータベース化して活用しているに他ならない。
やはり「K・K・D」が大事であり、これを仕組み化することがこれから生き残っていける企業になると思う。
「K」と「K」の「勘」と「経験」は同じ意味なので、筆者は、これにセンスを加味して、「K(経験)」「S(センス)」「D(度胸)」として提唱していきたい。
設計された製品が品質問題を起こさないためには、最初から未然防止を織り込んだ設計をしなければならないが、大切なのは設計の詰めの部分であるものづくりを熟知した公差設計の実践であり、DRBFM、FMEAの最終の落としどころは、この公差設計の結果で決まることになる。
本稿は筆者のこれまでの経験と、現在設計現場で直面していることを事例として記載をしたが、品質問題未然防止法DRBFMに加えて、ものづくりの道理から考える公差設計・解析を、少しでもマスターしていただければと切に願うばかりである。