1. はじめに~みる視点について
今回から改善活動や品質活動に関する話しを進めていく。これまでに掲載してきた不定期シリーズでは、特にフロー工程を題材とし、改善する為のテクニックや事例を説明してきた。
たしかに改善事例や品質向上のテクニックは、自社内での活動の役に立つ部分も多くあったと報告をいただき、筆者としても嬉しい限りである。
しかし、改善活動や品質活動の「そもそも」の成り立ちや活用法を理解しないまま各活動を行う事は、間違った方向に活動が進んだり、活動の途中で目的を見失う事につがったりしてしまうため、非常に危うい行為であるといえる。
そこで改善活動や品質活動の「そもそも」の成り立ちを理解していただくと共に、企業における改善活動や品質活動の本来の目的を再確認していただくために本シリーズを執筆することとした。
まずはじめに、不良改善の前に必要な「基本的な心構え」について解説していく。
筆者はいつもセミナーなどで、「入口を間違えると出口が見つからなくなる」という話をしているのだが、入口となる基本はやはり非常に重要なものである。
たとえば部屋の電気をつけるためにはスイッチをオンにすればいい。そんなことは誰もが分かっていると思うがしかしこんな経験はないだろうか。「電気のスイッチをオンにすれば明るくなる」ことは分かっているのだが、めて訪れた部屋(友人の家やホテルなど)であるため、スイッチそのものがどこにあるのかわからない、ということである。
このような経験は、誰もが一度は経験していると思うが、これと同じように、ノウハウやテクニックというのはつまり電気のスイッチなのである。
2. 視点について
図1のように、単純に「みる」といっても、様々な「みる」が存在するが、これは「みる」姿勢によって該当する漢字(感じ)が変わるからである。このことは、漢字を使用する日本や中国などの国だけの話ではなく、世界のあらゆる言語において「みる」という単語は多数存在するのである。
鑑定士という仕事は古びた壺や絵画などの真贋を見きわめ、そのものの価値を判定する人及び仕事である。私たちのように古き良きものに対して真贋を見きわめることができるような鑑定眼をもっていない人間の場合は、その壺や絵画が「本当に良いものか悪いものか?」はわからない。
なぜ分からないのかというと、それら対象物を判断する「見方」を知らないからである。
実ははんだ付け結果も同じである。私は不良改善などのご依頼でよく工場に行くが、その会社のかたがたが何週間もかかって改善できなかった不良を、早い場合は15〜30分あれば改善することができてしまう。これは何も自慢をしているわけではない。なぜその会社のエンジニアのかたがたにできなくて、私にはできるのかというと...「はんだ接合部の見方を知っている」。ただそれだけなのである。
① 見る
どういう状況か「判断する」という見方である。その状態の把握ということになる。つまり、形はどうであるか? 色はどうであるか?というような、不良がまず不良であることを認識するということである。
② 視る
先に説明した①の見るとほとんど同じであるが、こちらの「みる」はより注意深く視るという姿勢になる。上記の①が裸眼で見ていたとすれば、拡大鏡やマイクロスコープを使用してみるような感じである。
電子部品であれば、端子や電極の状態など、フィレットの形状やはんだ表面の光沢など、先程の見方よりもより詳細な見方をする。
③ 観る
この「みる」は逆に、俯瞰してみるような感じである。②がミクロに視ているということになるとすれば、こちらはマクロに観るということである。
不良の対象は、基板全体のどの位置にあるのか?基板全体としての反り方はどうであるか? 本日の設備の状態は何か問題があるか? 本日の作業者の状態はいつもと同じであるか?など、不良が発生している基板そのものよりも、さらに大きく「みる」範囲を広げて判断する。
④ 診る
この「みる」は、ある程度の予想を立てて判断するという姿勢になる。論理的に判断する見方といってもいいかもしれない。
その部位で、そのような不良が起こる、ということを論理立ててみるということになる。AであるからBになり、Cが生じて不良になった。このように頭の中で不良の経緯をストーリー立てて判断しながら、みるということである。
⑤ 看る
この「みる」は、気を配って判断するという姿勢になる。上記④の見方は、あくまでその不良に対して論理的に判断した見方である。
これに加えて「そうであるとするならば、背反してあの部位には次のような現象が起こるはずだ」というように、不良部位だけの事ではなく、他の部位に生じる現象も含めて看ていくという姿勢・判断の仕方になる。
不良を改善していくためには、このように多くの「みる」という姿勢の、使い方が存在する。これらを、それぞれの場面において、正しく選択できることが不良改善には必要なことになる。
このような基本姿勢がないままで、「いきなり不良部位を観察」し、「詳細に情報を集め」、「対策を打とう」としても、うまくいかないのはあたりまえなのである。
「とりあえず不良が出たから対策する」というのは、ゴルフでいえば「とりあえず球があるから打つ」といっているのと同じである。このような練習の仕方では、ゴルフがうまくなるはずもない。
あたりまえであるが重要なので、しっかりと覚えておいていただきたいと思う。
図1 視点について
3. 「視点」は解釈
以上、あらゆる場面にを想定して「みる」について説明をしてきた。なぜあんなに細かい説明をしたかというと、われわれ人間は物事を正しく見ていないことのほうが多いからである。
自分の目に飛び込んできた映像を「そのまま見る」というのは、実は至難の技である。それほど人間というのは、ただ見るということが難しいのである。脳が発達しているからかもしれない。
つまり、人間は目の前に現れた出来事を「解釈」しながら「みている」のである。そしてその出来事は解釈によって判断が異なる(図2)。
頑固な人がいる。頑固、ということも、悪い言いかたをすれば「頭が固い」「融通が利かない」などの解釈が可能である。しかし逆の解釈の仕方をしてみてみると「我慢強い」「諦めない」「心が強い」などの判断も可能になる。
「気が弱い」「気が強い」、これらのことも同じである。人は多くの場合、今自分が遭遇している環境を変えようとする。今のその状況に満足していないからである。仕事で言えば不良が出ている、というその状況を変えようとすることは、おそらく私生活でも同じようなことがいえるであろう。
しかし周りを変えようとすることができるのは、非常に大きな力をもっていないと不可能である。お金も時間もかかるのである。解釈を変えることは、お金も時間もかけずに簡単に変えることができる。
不良を改善できていない工場では、不良を改善できていない工場のエンジニアは、この解釈を変えることがまずは大事である。「毎日、満員電車で通勤に2時間かかる」。これを変えるにはどうしたらいいか?
不良改善できていない工場のエンジニアは、図2で示した回答で言うところの上から二つ目までしか出てこない。つまり、「近くに引っ越す」とか、「通勤時間中に本を読む」とか、かかっている時間を短くする方法をとるか、かかっている時間を有効活用するための方法をとるか、そのいずれかの案しか出てこない。
これを工場内の具体的な事例に置き換えて話をすると、たとえばはんだの温度が250℃±5℃の範囲で調整が、管理条件上を可能であったとする。すると、改善できないエンジニアは、245〜255℃の範囲で改善することが可能かどうか?を検証しだすのである。もともとの管理条件が不適切であるとは可能性すら考えないのである。
なので先の事例でいえば、「会社を辞める」という発想は出てこない。入口か間違っているのである。私の講義ではよくお話をする話なのであるが、入口を間違えた場合、出口にはたどり着かない。特にエンジニアリングはそうなのである。
改善を行うときは、広い範囲に視野をもっていただきたい。はんだ付け条件の改善を行う場合、私であればはんだの温度の検証はそのはんだの融点から行う。Sn3.0Ag0.5Cuの鉛フリーはんだであれば、融点は約220℃なので検証の最下限値は220℃に設定する。
「それでは...はんだがつかないのではないですか?」
まったくその通りである。だがここに設定の最下限値をもってくることが重要なのである。はんだの融点以下の設定では、はんだが溶融しないので、「その設定値は間違っている」ということがいえるはずである。
では、はんだが溶けた後、+何℃からはんだ付けは可能になるのであろうか? このようなことを検証するのが真のエンジニアリングであると私は思う。このように、ありとあらゆる事が検証済みであるからこそ、ありとあらゆる事を調整することができている、といえるのではないであろうか。
このような発想が頭の中からすぐに出てくるように、あらゆる出来事に関して解釈の仕方を何通りももつようにしておこう。それには普段から、そのような考えをもっていることが重要である。つまり日常生活においても、これまでの解釈の仕方を変えてみる、解釈を何通りか考えてみる、ということを行ってみていただきたい。必ず改善活動に役に立つ。
図2 「視点」と解釈
4. 比較して「みる」視点
次に、私が実際に指導している実装工場で取り入れてもらった事例を紹介する。
工場内には必ず「検査工程」というものが存在する。そこで皆さんにお訊ねしたい。
「朝の朝礼がある場合、検査工程の作業者も全員朝礼に出ていますか?」「朝礼の後、すぐに検査を開始しますか?」
この質問をセミナーなどで行ってみたところ、かなり多くの会社のかたが「YES」とお答えになられた。なので別に間違っているということではないのである。では何をコンサルティング先の工場で採用してもらったか?
それは、
①検査工程の作業者は朝礼に出なくてよい、ということ。
その代わり、
②「朝の目のトレーニング」を行うこと。
この二つである。
もちろん、朝の朝礼には検査工程の作業リーダーだけは出席してもらって、そこでの情報は作業者に展開してもらうようにする。
私が言いたいのは、検査工程の作業者のかたがたは、朝のまだ眠い時間に、聞いてもいない朝礼なんかに出席してもらうよりも、まだ寝ぼけている可能性がある朝であるからこそ「目のトレーニング」をしてもらいたいということである。
とはいえ、朝からはんだ接合部を「標準見本品」などを用いて目のトレーニングをしてくださいと言ったところでほとんどの作業者が「見ているふり」をするであろう。そうではなく、楽しみながら目のトレーニングができれば一石二鳥である。そこで考案したのが、間違い探しの採用である(図3、図4)。飽きてしまうと困るので、曜日によってやる事は変更すれば良い。
間違い探しだけではなく、『ウォーリーを探せ』など、趣向を凝らして作業者に飽きさせない工夫が必要である。
さて、皆さんはすべて見つけることができたであろうか。思ったよりも多く間違いがあったことがわかったことと思う。このように検査員かたがたは、朝の一番から、またはお昼ご飯を食べてすぐ、製品において良否の判定をしなければならない。なので不良を見つける目を養わなければならないのである。
その「不良見つける目」は、いきなり開花するものではない。日々の努力の積み重ねで養われていくものなのである。
このように、遊び半分かもしれないが、検査員のかたがたには、朝の朝礼に行ってていただくよりも「不良見つける目」を発揮していただく準備運動をしていただいたほうが検査精度の観点からいってもよいといえるであろう。
図3 比較してみる視点(良品と不良品の差異を明確にする)
図4 図3の答え
5. 改善に必要な5つの心構え
以下に、改善に必要な5つの心構えについて説明する。(図5)先日、ある会社さんのセミナーで、セミナーの開始時からこの話をした時に、以前私のセミナーを聞いてくださった受講生の方から、「おいおい、佐竹さん!いつものセミナーの感じと違って、カタッ苦しく、真面目すぎないか...」と心配されてしまった。
私も、たまには真面目な話をするのであるが、この5つの心得はいつにも増して真面目すぎる話であることは十分自覚している。しかし話しておかなければならないことなのである。
① 固定観念は捨てる!
これがかなり厄介な話になる。自分では気づかないうちに「観念」が固定されているからである。固定されていない観念は、自由に変更することができるため「頭がやわらかい」ということにもなる。観念はあってもいいものなのであるが、固定されていることが問題なのである。
例を出そう。
たとえば何かの不良を改善したいとして、「ヒータの温度を変更してみよう!」とした、とする。
この時に行いがちなのが、自社で規定されているヒータ設定温度範囲(○○℃±△℃)でしか調整を行わないということである。
この時点で、自社の規定範囲のみに観念が固定されているわけである。不良を改善する時には、どこに答え(真因)があるかわからないので、規定された設定範囲以上に検証を行わなければ満足する結果は得られるわけがない。
先にも述べたように私は、はんだの温度を設定する場合は、そのはんだの融点から考える。つまり、フローはんだ槽であれば、はんだの設定温度を考えるときに、溶融はんだの温度をSn3.0ag0.5cuの鉛フリーはんだであれば、220℃の設定から検証を行う。もちろん、そのはんだの融点に設定しても溶融バス内のはんだは溶けていない。
ではいったい+何℃からはんだが溶融し噴流が可能になるのであろうか!?私はここから検証を開始するのである。もし○×△で評価を行っていたとすれば、本当の意味で×な領域から検証をスタートする。
コンベア速度の設定の場合、0m/minという設定が可能であれば、そこから検証をスタートする。すると驚くことに、0mの設定ではコンベアが動かないはずなのに、設備によっては微妙に動いていたりするのである。このように固定観念を捨てて、不良改善の検証をスタートさせることが重要である。
② すぐにやれ! 言い訳は無用!
これは私も書いていて、自分の心にぐさぐさと突き刺さる言葉なのであるが、何事もすぐにやらないと意味がない。皆さんも私生活でよく経験していることだと思う。
「後でやろう、いつかやろう」これは言い換えると...「今はやりたくない」ということなのである。
いきなりすべての結果をよりよくすることを考えるあまり、行動が遅くなることは多くの人に当てはまることだと思う。しかしそうではなく、すぐにやれることはすぐにやってしまったほうがよいのである。なぜならば、やってみて初めてわかることが実際に多いからである。
簡単な検証をたくさん網羅した計画表を作るよりも、簡単な検証であればにすぐやってしまって結果を出してしまおう。
③ 金に逃げるな! 知恵で勝て!
私はいろいろな会社に行って、技術的な指導や不良の改善などを行うので、このような場面に多く出会う機会があるのだが、知恵を絞ることに不慣れな人が多いように感じる。
私を不良改善で呼んだ会社さんは、不良というロスコストを少しでも軽減するためにコンサルティング料を支払って呼び寄せたはずである。にもかかわらず、不良の改善をするために種々の提案を行った時、多くのかたがこう答える。
「いやあ、もっと作業者がいれば、それもできるんですけどもね...」
「あ〜、それができるような設備があれば簡単にできるんですけれど...」
これをいってもはじまらないのである。今いる作業員の数、今ある設備、今ある環境、今使用できる時間、今使用できるお金...etc。これらが「今」配られたカードなのである。ポーカーのようなカードゲームでもそうであるが、配られたカードを元に勝負をするしかないのである。
「あ〜、今スペードのエースがあったらなぁ...」
こんなことをいっても、配られたカードが違うのですから、それで勝てる方法を探すしかないのである。もっと知恵を絞ろう。そうすれば、いろいろな改善案(工夫など)が出てくると思う。
④ 真因を潰す! 何故を繰り返せ!
これはよく聞く言葉なので、いまさら説明は必要ないと思う。「なぜ?」という問いを繰り返して真因を見つけるまで考えよう!ということである。私も実際に、コレは今でもよく行う。「ブレイン・ダンプ」である。
ブレイン・ダンプについて詳しく知りたいかた、やり方を教えて欲しいかたは、個別にメールしていただきたい。
⑤ 完璧は来ない! 今を超え続けろ!
私は「完璧」という言葉が嫌いである。完璧という言葉には、それ以上がないからである。技術の分野だけではなく、どのような世界にも共通して言えることだと思うが、完璧を目指すということはあたりまえである。しかし完璧だと思ってしまった瞬間から、成長はない。
「もっと良くしよう」
この発想が、不良の改善だけではなく、より技術水準を高めて高品質を実現できるキーワードである。しかしこれは非常に難しいことである。完璧を目指しているのに、永遠に完璧は来ないからである。
ここで私から一つ質問をしよう。「不良が出ていない製品の品質について常に考えていますか?」
不良がなくなって終わりではないのである。不良改善という言葉で活動ははじまるが、不良がなくなってからが本当の改善活動が始まるのである。もし不良が出たり出なかったりを繰り返したくないのであれば、不良がなくなっても「完璧」と思わずに、常により良くする方法を考えていこう。
図5 改善に必要な5つの心得
6. 改善前・時の注意点と考慮すること
心構えは解ったけれども、実際にどうやってやっていけばいいの? ここからはこの質問に対して説明を行っていく。
製品を製造した際に、はんだ付けを行った際に、まずはその状態を確認すると思う。つまり外観を観察することが、最初の一歩になることであろう。その観察を行う時には、以下のことに注意をして観察を行っていただきたい。
① できる限りの情報を集める
まずは情報が命である。たくさんの情報を集めてから不良の改善ははじまる。何も情報がない中で不良の改善はできないと言い換えることもできるであろう。
その時の生産数はどれほどあったか? その日の天気は? そのロットの仕掛かり始めで出た不良か? 仕終わり付近で出た不良か? 情報は多ければ多いほどよい。
② 拡大、多方向から観察する
人間の目に見える限界なんて知れている。まずは見えにくいのであれば、拡大して観察するくせをつけていただきたい。 たとえばソルダペーストの平均粒径は約30μmである。メタルマスクの破損やスキージの破損など、目視で確認できる破損であれば、それはもう重大欠陥である。ソルダペーストの平均粒径を超える破損が生じた時点で、不良が発生する可能性があるわけである。
目視で確認できているという自覚があるかたは、確認しているという気になっているだけである。その不具合を防ぐために必要な倍率で拡大して観察してほしい。
また、拡大すると同時に、いろいろな方向から観察を行ってみていただきたい。一つの方向からだけの観察で、ちゃんと見たような気になってしまうことは危険である。見る角度が変われば見え方も変わる。
③ はんだ以外もよく観察する
④ 接合母材の使用前後を確認する
⑤ 接合補助材も同様である
この3つは、一つのくくりとして説明を行うことがでる。ようは、はんだ付けした結果を「はんだの部位のみ」で決定しないということである。はんだ付けというものは、
・はんだ
・フラックス
・接合母材
・その他
の構成で行っている行為である。ということは、そのなかの「はんだ」だけを見て判断しては、判断そのものが間違う可能性があるということである。ですので、「フラックス」「接合母材」「その他」も観察するように心がけていただきたい。
⑥ 固定観念や先入観を捨てる
これについてはすでに述べた内容を参照していただきたい。
⑦ 必ず良品と比較する(またはn数を増やす)
不良ばかりを見ていては、何が良品なのかがわからなくなる。良品ばかりを見ていれば、何が不良なのかがわからなくなる。必ず比較するということを頭に入れておいていただきたい。
となると検査工程には必ず限度見本がないといけない。しかもそれは「良品限度見本」と「不良の限度見本」の両方必要だということである。比較することで、より精度良く検査や観察することが可能になる。
次に考慮するべきことなのであるが、これには非常に多くの経験が必要になる。
図6の下の、「初期解析の際には以下の事を考慮する」の項目1)〜6)をみていただきたい。
はんだ付け作業に関わる多くの事柄について、その役割と働きを理解するには多くの経験が必要だということはこれで分かっていただけることと思う。
とりあえずは、この6項目を頭の片隅に置いておいてもらいたい。上で説明したような観察方法を繰り返していけば、自然とこの6つがわかるようになってくると思う。
図6 改善前・時の注意点と考慮する事
7. 改善前・時の心構えとポイント
図7の内容は、実は図6と変わらないものである。説明した内容を改めて表にして順序立てたものだからである。さきほどの説明がご自身の経験とともに十分に理解できたかたは、おそらくこの図を見て「なるほど」と思われることかと思う。
ご覧になっても「なるほど」と思えないかたは、図6で解説したように、観察方法から経験を積んでいっていただきたい。...とはいえ、投げっ放しジャーマンみたいであまりにも乱暴な表現になってたので、以下に簡単に説明を行う。
「いや、もっと詳しく説明をしてくれよ!!!」という声も聞こえてきたような気がするが、経験がないときに詳しい説明を行っても、消化不良を起こすのである。
ご自身が経験を積んだ時に、ここでいう簡単な説明がより深く理解できることと思うので、まずは騙されたと思って読み進めてみてもらいたい。
① 部位の確認
まずは部位の確認を行う。不良の発生している場所を確認するのではなく、基板全体のどこに発生しているか? を確認するのである。
このときに使う「みる」は、「観る」という見方である。基板内の位置や方向から、その不良発生部位が、どのような熱の加わり方をしたか?どのような応力が加わったか? を確認していく。
② 形状の確認
次に形状を確認する。フィレットの形状や端子の形状、電極の形状、基板全体の形状、大きいものから小さいものまで確認を行うことには変わらないが、「形状」という細かい部分を見るのが特徴である。この時に使用しているのは「視る」になる。
③熱容量の確認
④流し方向の確認
⑤はんだ付け条件の確認
これら3つの確認を行うために使用しているのは「診る」になる。頭の中でその不良発生部位に対してどのような影響が加わったか、を確認しているのである。特にどのように熱が加わって、どのように冷却されていったか? について確認をしている。
⑥ ポイントの確認
ここで使用しているのは、すべての「みる」である。複合技である。この段階では原因を判断するために観察を行っているので、その時々において診るだったり、視るだったり、観るだったり、が使い分けられる。ここまでの説明や表の中の観察内容を参考にしながら、実際の現物で観察を行ってみていただきたい。
ここで一つアドバイス! たとえ同じ部品だとしても、同じ場所に搭載されていたとしても、実際には1つとして同じものはこの世に存在しない。このことを頭に入れておいて観察を行うだけでも、観察結果が十分に変わってくる。
「必ず何かが違うんだ!」という意識の中で観察を行うのと、「だいたい同じである」という意識で観察を行うのでは、結果が変わってくるのはあたりまえである。
⑦ 良品との確認
ここで良品との比較を行うことや、もう一つ不良が発生しているとすれば、その不良品と比較して観察することでこれまでに行ってきた判断の裏付けが可能になる。
この時に使用しているのは「看る」である。これまでの経緯や状況を判断して、これから起こるであろう未来(経過)を予測しながら観察する行為である。
簡単に、といいながら、けっこうな文字数で説明をしたが、これは本当に経験が増えれば増えるほど、上述した内容が「腑に落ちる」ことになると思う。
それにより、はんだやフラックスの役割が理解できて行くことだろうし、多方面から観察することの重要性も理解できていくことと思う。また、限度見本の重要性もわかるだろう。焦らなくてもいいので、ご自分のペースで少しずつ理解を深めていっていただきたい。
この時にもう一つ重要なのが、常に記録に残しておく、ということである。昔と違って現在は、画像で記録を行うこと自体は容易になっているはず。多くの記録を残しておけばおくほど、後にデータベースとすることもできるし、観察方法の見本として、作業手順などの活用も可能になるので、ぜひ参考にしてほしい。
図7 改善前・時の心得とポイント
さて、本稿は書いているほうとしても非常に心苦しい内容になった。かたっ苦しいのは私の個性ではないのだろう。
ただ、固い内容だったとは思うが、そのぶん、深い内容だったと思う。
どのようにすぐれたノウハウであっても、それを活用する人のマインドが低い状態では、ノウハウはノウハウとして意味をなさない。日本語では、よく「氣」と言う。「やる気」とか。
ちなみに私は、「気」よりも「氣」の字の方が好きである。前者の「気」は、一般的に使用される文字である。後者の「氣」は特殊文字といえるであろう。後者の方は中に「米」という字が使われている。これは、四方八方に広がる様子を現しているそうである。
心構えなどの話をする時には、私は後者の文字が適切であると考えている。その人の中に四方八方に広がっていくことで、本当に使えるノウハウになると思うし、その人を起点に周囲の人々がそのノウハウを享受できると思っているからである。
最後になるが、2016年より実装技術の向上を目的とした、私塾を開いている。技術的な指導や講義はもちろんのこと、考えかたやエンジニアとしての生きかたについても触れていく内容になっている。
現在、塾生の裾野を広げていきたいと考えており、募集を行っているのでぜひ参加いただきたい1)。
●目的
・同業種交流会:STS(名称)
・不良内容や技術課題を参加者全員で解決!
・2h程度セミナー+ロールプレイによる品質会議。
・専用のテキスト(約160p)配布。
・前回分の受講内容を動画で配布。
・希望者のみ終了後、オフミーティング開催。
※会場の近隣で親睦を深めます。
それでは次回もお楽しみに。
<参考URL>
1)https://www.soldering-tec.com/