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その他 2018.09.04

半導体業界の話題(第1回)〜エレクトロニクス業界を牽引するインテル(株)〜

厚木エレクトロニクス 加藤 俊夫

半導体業界の話題(第1回)〜エレクトロニクス業界を牽引するインテル(株)〜

 これまで3年間、本誌に企業紹介を行ってきたが、今後は折に触れ、半導体に関する話題を提供することにしたい。第1回は超有名なインテル社の状況を報告する。

 

1. インテルの歴史は半導体の歴史

 1947年、ベル研究所でトランジスタが発明された。発明者の一人であるショックレーは、サンフランシスコの南にショックレー研究所を設立した。もし、ショックレーがシカゴやテキサスに研究所を設立していたら、世界のエレクトロニクスの中心は、シカゴのシリコンレークか、テキサスのシリコンデザートになっていたであろう。ショックレーは優れた学者だったが、人使いには問題があったらしく、翌年には7名の有力技術者が研究所を飛び出してフェアチャイルド社を設立した。しかし、そこも安定ではなく、多くの技術者が独立してベンチャー企業を興し、現在のシリコンバレーの基礎となった。そのうちの一つがインテルである。

 インテルの創業は1968年7月18日で、プレーナーICの発明者であるロバート・ノイス、ムーアの法則(図1)で有名なゴードン・ムーア、第1号の社員として入社したアンドルー・グローブの3名が、その後のインテル発展の指導者となった。翌年には、64ビットのSRAMを、1970年には1キロビットのDRAMを商品化している。当時のコンピュータのメモリには磁気コアが用いられていたが、半導体化により体積で恐らく1/100になり、コストも大幅に下がることになった。

 翌年、インテルの将来を決定づける(世界の半導体業界にとっても重要な)話が、日本のビジコンという電卓の会社から提案された。電卓の機種が代わるごとにICを製作するのではなく、ソフトウエアで対応できるICを作りたいとビジコンの嶋正利氏が提案し、インテルはこの案を真剣に検討して、現在のCPU(Central Processing Unit)を開発した。1971年、インテルは世界初の4ビットプロセッサ「4004」を発表した。それは3×4mmのチップに2300個のトランジスタを集積し、10μmプロセスで製造されたものであった。

 その後、順調にDRAMとCPUのメーカーとして成長していたが、1980年代になって日本の半導体メーカーがこぞってDRAM市場に参入した情勢を見たインテルの指導者は、1985年、DRAMを捨ててCPUに特化し経営資源を集中する戦略を決めた。世界一を自負していたDRAM関係者にとって、ビジネス中止とは納得いかない決定で社内で大きな議論が巻き起こったと想像するが、この決断がその後のインテル躍進の元になったわけで、あらゆる産業を見ても、これほど素晴らしい決定はないと筆者には思える。これこそ文字通りの「選択と集中」であった。

 それ以後のインテルの躍進ぶりはご存知の通りで、1990年代にPC時代になるとだれもが争って"Intel inside"を標榜することになった。ここ数年、スマホに押されてPCがやや陰ってきているが、データセンター用のプロセッサはインテルが圧倒的なシェアをもって、クラウド時代を支えて発展している。さすがのインテルも、スマホ時代の到来を読み違えたといわれている。クァルコムとメディアテックが圧倒的に強くて、インテルの出番がなかったわけである。しかし、今後は自動運転などにも開発を集中させて、新ビジネスの開拓を行っている。また、LSI素子の進歩はムーアの法則に従って続いており、新構造のFinFETもインテルが世界に先駆けて生産開始している。

 以上、長々とインテルの歴史を紹介したが、これは半導体の歴史と言い換えてもよい。なお、インテルとはIntelligenceの略ではなく、Integrated Electronicsの略だそうである。

図1.jpg

図1 ムーアの法則

 

2. PCからデータセンターへ

 スマホに押されてPCの売り上げに陰りが見え、PC用CPUの売上が多いインテルの業績を心配する声があるが、PC用CPUで培った技術はクラウド時代を迎えてデータセンター用に生かされて需要が大きく伸びており、この分野で圧倒的に強いインテルの業績は相変わらず絶好調である。機械学習向けに導入されているサーバの97%以上にインテルのプロセッサが搭載されている。最近、サムスンの売上がインテルを超えたといわれるが、これはメモリの市場価格が一時的に暴騰しているためであり、市場が落ち着けばインテルが不動のNo.1であることに変わりがないだろう。

 

3. IoTやAIの分野に対応

 インテルはリアルタイムOSのVxWorks製品をもつWind River社を数年前に買収した。同社はネットワーク機器や工業用機器、コネクテッドカー、宇宙航空の分野で実績がある。これにより、インテルはIoTシステムのデータ分析と、見える化ソフトを作るためのツールAXON Predictをもつことができ、IoT向けチップとソフトウエアツールの両方を提供できることになった。AXONとVxWorksで、IoT端末のモニタリングができ、製造業をはじめ、多くの産業界の用途で、生産の安定化やリスク対策に対応している。

 人工知能用に多く用いられているXeonシリーズは、ディープラーニング用のStratix 10 FPGAとともに大いに活用されている。

 

4. 自動運転に注力

 自動車の自動運転の世界市場は2025年までに5兆円規模になり、2035年までに自動運転車両の販売が自動車全体の1/4になると言われており、自動運転は今後の半導体ビジネスの柱になることは間違いないと思われる。インテルはCES2017において「インテル GO」という自動運転ソリューションを発表した。5月には自動運転の研究開発拠点となる自動車研究所(Intel Advanced Vehicle Lab in Silicon Valley)を正式にオープンした。BMWらと開発中の自動運転車両を公開し、40台の自動運転車両を公道で走らせる計画を発表している。

 2017年3月には、モービルアイ社を153億ドル(1兆7500億円)という巨額の買収を行った。モービルアイ社は単眼カメラによる画像認識では事実上のデファクトスタンダードで、多くの自動車会社はモービルアイが開発したアルゴリズムと半導体のSoC(System on Chip)を採用している。イメージセンサでは、世界最高の品質を誇るソニーもモービルアイ社のシステムに対応した製品を共同開発している。

 運転をアシストするレベル3以下のADAS(運転支援システム)だけなら、カメラ、ミリ波レーダ、LIDAR、超音波などのセンサとAI(人工知能)で実現可能と思われるが、さらに高度化したレベル4以上の自動運転には、高精度な地図、路車間及び車車間通信(V2X技術と呼ばれる)は欠かせない。このためクラウドとの情報交換が必須となる。数年後には5G(第5世代の通信)が実用化され、高速で大容量のデータ通信も必須となる。自動車メーカーは、クラウドへの接続サービスについて、車載システムのプラットフォームの他、通信系のプラットフォーム、クラウドプラットフォームに関する技術を備える必要がある。「インテル GO」により、自動車、コネクティビティ、クラウドという3つのプラットフォームを統合したシステムの開発が可能になり、完全自動運転の実現を加速させることになると思われる(図2)。インテルGOは、走行中の周囲の状況把握、道路状況や規制などの関連情報の統合、それらに基づく自動運転の機能の実現を可能するための開発ツールである。

 自動運転については、GPUに強いエヌヴィデアや、通信に強いクァルコムなどが注力しており、インテルのGOとのし烈な競争となりそうである。

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図2 「インテル GO」自動運転ソリューション

 

5. ワイヤレス関連のロードマップを発表 

 インテルは昨年11月、5G(第5世代移動通信)および高度なLTEチップの発表を行い、この分野で先行するクァルコムを追撃し始めた。CDMA(Code Devision Multiple Access)とギガビット/秒(Gbps)に対応するベースバンドチップXMM7650を開発した。いっぽう、XMM7660は、データ転送速度は最大1.6Gbpsで、間もなく出荷される。アップルはクァルコムとの法廷係争があって、iPhoneのLTEベースバンドチップにインテル製を採用しはじめたといわれている。

 インテルの製品は、バイオ関係や多くの産業界に貢献しているが、紙面の都合でここまでとし、次に半導体関係の話題を取り上げる。

 

6. 次々に革新的な半導体素子を開発・生産

1. FinFETの量産を開始

 LSIの進歩はとどまるところを知らず、まだまだムーアの法則に従って集積度が向上すると思われる。インテルのこれまでの集積度向上の様子は図3に示す通りほぼ2年で2倍のペースで、①LSI微細化による集積度向上と、②回路上の工夫の成果、である。CMOSが微細化されると(正確にいえばチャンネル長が短縮されると)、ゲートの電圧がチャンネル下部を制御できなくなり、ソースからドレインに漏れ電流が流れてしまう。これをショートチャンネル効果といって、MOS微細化を阻害する大問題であった。それを解決する策としてFinFETが開発され、インテルが世界に先駆けて量産を開始した。

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図3 インテルのLSI集積度の変遷

 

 図4は、ショートチャンネル効果の説明と、FinFETの構造である。インテルは昨年12月のIEDMで10nmプロセスを発表したが、ゲートの上にコンタクトを設けるCOAG(Contact over active Gate)構造で、パターニングにはSAQP(Self Align Quad Patterning)を用いている。

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図4 ショートチャンネル効果の説明と、FinFETの構造

 

 SAQPについては、図5のようにCVDとエッチングを用いてパターン寸法を1/2にし、これを2回繰り返して1/4にするわけで非常に手間がかかるが、波長が13.5nmのEUVが実用になるまで10nmオーダーの微細化には必須の技術であり、各社が開発にしのぎを削っている。

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図5 SAQP(Self Align Quad Patterning)

 

2. 注目される3D XPointメモリ

 3D XPointメモリは、インテルとマイクロン・テクノロジー社が共同開発し、両社から2015年に大々的に発表された不揮発性メモリである。DRAMに比べて記憶密度が10倍、NANDフラッシュメモリに比べてアクセス速度が1000倍、書き換え寿命はNANDフラッシュメモリの1000倍といわれている。3D XPointメモリの構造は図6のように発表されているが、詳細な技術は発表されていない。業界ではある程度の推定は行われており、記憶部はカルコゲナイド材料の相変化メモリで、セル選択素子は米国の発明家オブジンスキーが1960年代に発見した「オボニック・スイッチ」といわれている。カルコゲナイド材料は、高温にすると合金(低抵抗)状態になり、徐冷するとアモルファス(高抵抗)状態のどちらかとなって不揮発性メモリとなり、電圧印加によって導通と絶縁

の2状態を検出するスイッチとなる。材料はゲルマニウム(Ge)とアンチモン(Sb)とテルル(Te)の化合物(GeSbTe)である。

 3D XPointメモリの用途として期待されるのは、ストレージクラスメモリである。

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図6 3D X-point Memoryの構造

 図7のように、現在のコンピュータのメモリ構成では、DRAMの動作速度に比べて、不揮発性のHDDは6桁近く低速で、NANDフラッシュメモリのSSDも低速で使いにくい。そこで、中間クラスのメモリが望まれており、この用途には3D XPointメモリが期待されている。筆者の勝手な想像であるが、3D XPointメモリの動作速度がもう少し速くなれば、DRAMに置き換える可能性があるし、コストが下がればHDDやSSDに置き換わる可能性もあり、用途によっては万能メモリになるかもしれない。その場合、不揮発性のメリットを生かしてパワーゲーティング回路などが導入できて省電力化も図れて画期的だと思われるが、暴論かな?

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図7

 

3. その他の半導体

 FPGA(Field Programable Gate Array)の2大メーカーの1社であるアルテアを167億ドルという巨額で買収した。FPGAは、フィールド・プログマブルすなわちLSIを買ったユーザーが自分で回路を製作できることが大きな特徴で、LSIの開発期間の短縮や多品種少量生産用に使われてきたが、今では超高性能プロセス技術で生産され、機能が充実しているので量産にも使われるようになってきている。インテルのCPUは、現在サーバー向けの分野で絶好調であるが、処理エンジンをマイクロプロセッサからFPGAに移行する動きが急速に進展している情勢である。

 「インテル GO」にも、CPUとともにFPGAがボードに搭載されている。FPGAをマイクロプロセッサと電力あたりの性能を比較すると低消費電力であり、検索処理では約10倍速いといわれている。インテルは、世界最高レベルの微細化したLSIプロセス技術をもっているので、FPGAビジネスを伸ばして行くと思われる。

 現在、集積度の多いことでは、3D-NANDフラッシュメモリが大きな話題で、某社は1Terabitの生産を開始すると発表した。インテルもマイクロン・テクノロジーと組んで、3D-NANDフラッシュメモリをビジネス化しており、中国に大工場を建設するらしく、大いに今後が期待される。

 

7. まとめ

 インテルは人工知能の分野で、先日"Myriad X"を発表した。これは16個の128ビットのプロセッサで構成され、DNN(Deep Neural Network)の推論を高速かつ低電力で行うものである。人工知能は、ディープラーニングにより一大革命が起こりつつあるわけで、この分野でのインテルの活躍が今後とも期待される。

 インテルは、これまで約40年間にわたって半導体業界を牽引し、エレクトロ二クス業界の発展に貢献してきたわけで、現在も超一流の技術を誇っている。今後、自動車、ロボット、バイオ/メディカルといった身近なテーマはもちろんのこと、将来を考えると世界の人口はいずれ100億人になり、しかも大部分の人が都市に住むといわれ、食料、水、電力、交通、住居など各種の社会インフラの整備が一大問題になると思われる。その時、半導体技術がどんな貢献ができるのか、将来にわたってインテルの指導的役割を期待したい。

厚木エレクトロニクス 加藤 俊夫

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