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その他 2018.09.25

半導体業界の話題(第7回) 〜エレクトロニクス業界の発展を牽引してきた「ムーアの法則」はさらに続く⑥〜

厚木エレクトロニクス 加藤 俊夫

半導体業界の話題(第7回) 〜エレクトロニクス業界の発展を牽引してきた「ムーアの法則」はさらに続く⑥〜


1. はじめに

 

 ムーアの法則は、LSIのパターン微細化により進展してきた。そのためにはパターニングのためのフォトレジスト工程の進歩が著しいが、今月はその進歩の経過をざっと眺めてみよう。

 図1は、説明するまでもないが、フォトレジスト工程の概略である。どのプロセスも微細化にとって重要であるが、特に露光技術について取り上げる。

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図1 フォトレジスト工程のプロセス・フロー

 

 パターンの解像度は、次のレーリーの式で表される。

式.jpg

 微細化を進めるために行われたのは、露光波長λを小さくすることである。初期の頃は、水銀ランプのg線、i線が用いられたが、エキシマレーザが使用できるようになり、微細加工が進んだ。エキシマとはExited Dimerの略で、Arのような不活性ガスをプラズマで最外核の電子を剥離して活性化し、ハロゲン原子と化合物を作り、それが基底状態に戻る時に発光するものである。まずクリプトンとフッ素の化合物であるKrF(λ=248mm)が用いられ、次いでアルゴンとフッ素の化合物ArF(λ=293mm)が実用になって、現在も主流の露光機(ステッパ)となっている。露光機のこれまでの経過を表1に示す。

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表1 露光装置の変遷

 

2. 超解像技術

 

 以前は、露光波長より微細なパターンはできないと考えられていた。そのため、X線の露光が精力的に検討されたが、適当な線源がなく、光学系の製作も難しくて実を結ばなかった。ところがArFの露光機を使用して次々に巧妙な技術が開発され、線源の波長の1/10である20mm以下の微細パターンが実現できることになった。近接効果補正、位相シフト、輪帯照明、液浸ステッパ、ダブルパターニング、トリップルパター二ングなどである。

 図2は、OPC(Optical Proximity Correction、近接効果補正)の例である。SRAFは、Sub-Resolution Assist Featureの略で、解像度以下の細いパターンであるが、これにより近接したパターンが正常になる。マスクのパターンはウエハ上のパターンの4倍の大きさであるが、OPCやSRAFは、必要とするパターンよりはるかに微細であるから、描くためには微細な電子ビームが要求され、描画時間がかかり、コストアップの原因になっている。

 

図2 OPC(Optical Proximity Correction、近接効果補正)の例

 

 図3に示すのは位相シフトである。2本の線の間隔が、解像度以下の狭いパターンの場合、普通に露光すると左図のように2本の線が太い1本の線になってしまう。そこで、図のように1本の線をレチクル(マスク)の厚さを変えて180°位相を変えると図のように2本の線に解像する。

図3.jpg

図3 位相シフト

 

 図4は輪帯照明とSMO(Source Mask Optimization)である。微細パターンに対して、2光束干渉が有効に働くように斜めに照明する提案が行われ、ステッパの光源に輪帯の遮光板が挿入された。ロジックLSIのようにパターンが規則的でない場合、マスクのパターンに応じた照明パターンをコンピュータで計算するSMOが用いられる(図のSMOは筆者が適当に作成したものである)。

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図4 輪帯照明とSMO(Source Mask Optimization)

 

 図5は液浸露光機の構成である。光学レンズとフォトレジストの間を水で満たす。水は屈折率が1.4で空気の1.0より大きいので光が屈折し、実効的に解像度が1.3倍程度向上する。水が外へ漏れては論外であるが、小さな泡や水の脈理ができても像に影響するので、装置メーカーで多くの努力が払われ完成装置となった。

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図5 液浸露光機の構成

 

3. ダブルパターニングで解像度2倍

 

 図6のように2回露光を行うと、1回目、2回目ともに隣接パターンが離れているので近接効果が少なく、実効的なk1値が1/2近くに下がり、解像度が2倍になったのと同じ効果が得られる。

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図6 LELE(Litho-Etch-Litho-Etch)のダブルパター二ングで解像度2倍となる

 

 図7は、犠牲層となる物質のラフなパターンを形成後、全面にCVD膜をちょうど雪の吹き溜まりのように側面に積もるように膜付けし、全面エッチングすると犠牲層の側面の膜が残り、犠牲層をエッチングして除くと、元のパターンの1/2ピッチのパターンができる。この方法をSADP(Self Align Double Patterning)といって、微細なパターニングは1回だけで済みコスト的に有利である。

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図7 SADP方式で解像度を2倍にする方法

 

 この操作を2回繰り返したのが図8で、1/4の微細パターンが得られ、一部の生産に使われ出しているらしい。

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図8

 

4. いよいよ登場EUV

 

 波長13.5mmで、微細化の本命と目されていたEUV(Extremely Ultra Violet)が生産に使われる可能性が出てきた。価格が200億円/台といわれ、スループットが100枚/時でArFステッパーの1/2以下なので、露光のコストは高くつくが、7mm以下のパターンでは必須の装置となっている。光源は図9のように、すずの液滴を垂らし、レーザでプラズマ化して発光させる。EUV光はX線に近い波長なので光学レンズは使えず、反射光学系を用いる。EUV光の反射は、Si/Moを70層ほど積層した膜を用い反射率70%を得ている。

図9.jpg

図9 EUVの光源

 

 ただし10層以上の反射レンズを通すので、光の強度は1〜2%程度まで低下してしまいスループット低下の原因となっている。フォトレジストの感度、欠陥、ペリクルを用いるかどうかなど、まだ多くの問題が残っているといわれている。

図10.jpg

図10

5. まとめ

 露光機を中心に微細化の技術を見てきたわけであるが、この先も微細化が続くのかどうかは、ムーアの法則が続くかどうかの重要な点である。当面はEUV装置を使いこなして行くことになると思われ、次に期待されているのは、NAを大きくしたEUVステッパの開発である。EUVでもダブルパターンで解像度を2倍にすることは可能である。その先は波長6.5mmのEUVも候補になるかも知れないが、まだ見通しがあるわけではない。今回の話とは全く違うパターニング技術として、DSA(Directed Self Assemble)やナノインプリントも無視できない。

 

この技術については、次回に取り上げることにしたい。

厚木エレクトロニクス 加藤 俊夫

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